ほんりゅう アナログの笑顔、デジタルの憂鬱(柏瀬)

▼好きな写真家の一人にハービー山口さんがいる。CMに出ているので、ご存じの方も多いだろう。県高文連写真展での講演がきっかけで、写真集を何冊か買った。その中の一冊、「1970年、二十歳の憧憬」。彼の二十代の作品を集めたもので、「昭和」の子どもや若者たちが、はじける笑顔で写っている。誰もが身構えることなく、警戒心のかけらも感じられない。ハービーさんのプロとしての腕が上手に笑顔を引き出しているには違いないが、仮に今、無名時代のハービーさんが通りすがりの人にカメラを向けたとして、果たして同じような写真が撮れるだろうか。▼私は写真部の顧問をしている。デジカメの普及で誰でも手軽に写真が撮れるようになったこともあって、入部生徒が増えてきたが、風景写真ばかり撮る者が多い。生徒にとって人物写真は圧倒的にハードルが高い。よほど親しい人でなければ、いきなりパチリは出来ない。ネット犯罪が取りざたされる昨今、写真がどう使われるかわからないとなれば、仕方がない一面もある。▼デジタル化がもたらしたややこしさは写真の世界にとどまらない。学校現場でも情報機器の扱いやセキュリティーの問題で神経をすり減らし、新たな取り決めやそれに関わる報告書類も増え、多忙化にいっそう拍車がかかって来ている。見ず知らずの人のカメラに笑顔を向けた時代に戻るのは難しいが、せめて日々の仕事に笑顔で向かえるよう、多忙化に少しでも歯止めをかけたいものだ。