ほんりゅう 「D君の笑顔」(井深)

 広域人事により、他地区の中学校に3年間勤めた最後の年だった。担任した1年生の学級には、外国籍の生徒が3人いた。ブラジル人のMさんは、国民性からなのか、朝、ゆったり過ごし、昼近くに登校することもあった。あとのD君、J君はフィリピン人だった。D君は、入学式の日、鮮やかな黄色のパーカーを着て学級の列に並んだ。制服の準備が間に合わなかったのだ。小学3年生の時に日本に来たが、学校になじめず、あまり話をしないと聞いていた。そこで、タガログ語を調べて、「Magandang umaga (マガンダン ウマーガ)」と言葉をかけた。彼の緊張した表情がゆるんだ瞬間だった。J君は、9月からの転入生だった。英語授業でインタビュアーの役を任せた。なまりのある英語をカッコよく話し、人気者になった。それに刺激を受けて、D君の笑顔が増えた。D君は、はじめ言葉の壁のために自分を出せずにいたが、J君は、逆に言葉のハンデを英語授業で活かすことができた。「国民性」、「家庭環境」、「言葉の壁」…。一人ひとりに合ったていねいな支援が求められる。フィリピンの人たちは、家族の絆がとても強いと聞く。お別れの時、メッセージと派手なタオルをくれたD君のはにかんだ顔を、久しぶりに思い出した。